日別アーカイブ 2021年5月17日

投稿者:minoru61

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(1)

DXを実現するためには自社のソフトウェアの技術ノウハウだけではなく、世の中の製品やサービスがどの方向に向かっているのかに注目をしなければなりません。昨年度に発表されたApple Silicon M1を搭載したMacbook、Mac miniと4月に新しく販売されたiMacに注目されるのは、今後のコンピュータのアーキテクチャがどのようになっていくのかを多くの人が興味を持っているからです。

最近、多くの業界でSDG’sが話題になっています。IT業界での最大の問題は、DXが進むと世界の電力のかなりの部分がデータセンターで必要になってくることです。GAFAと呼ばれている会社はサーバをクラウドに置いていますが、データセンターを自ら開発しています。多くは水力発電などを作ってその近くにデータセンターを構築しています。もちろん、電力の供給がそのままビジネスに影響していることもありますが、それ以上にエコな環境を整備して行きたいからと言うこともあります。

昨年の末に発売されたM1 Mac Miniを購入して色々作業をしておりますが、M1 Macの冷却ファンが回っている音を聞いたことがないです。最近、リモートワークが多く、Google MeetやWebexなどでミーティングする機会が多いのですが、油断をしていると直ぐに冷却ファンが回り出します。以前、自分の部下とミーティングをしている時に相手のファンが回り出してうるさかったので、高速道路の近くに住んでるのかと思い、窓開けているのか聞いてみました。そしたら、いいえ開けていませんと言ったので、その次に、洗濯物でも回しているのか?と聞いたのですが、それもありませんでした。実は、コンピュータの冷却ファンがミーティングが始まるとともに回り出していたのです。

コンピュータはCPUが回ると熱を持ちます。そして、その熱はコンピュータの誤動作にも繋がりますので冷却ファンが回り始めます。現在では、自動車の中にもCPUが入る時代になりましたが、このコンピュータの熱はいろんな業界で問題になっております。Appleが独自開発したApple Silicon M1は、iPhoneやiPadで10年以上も経験をした結果として作られておりますが、ベースのCPUはARMというアーキテクチャを元に作られております。このARMアーキテクチャはAndroidのスマホでも利用されているCPUですが、スマホはバッテリーの容量に直接影響するのでエコなCPUが必要となります。実際にM1はARMをベースとしたSoC(System of Chipの略、CPU以外に色々なコンポーネントを一つにしたチップ)なので、Apple独自ですが、CPUの命令セットはARMの共通のものを使っています。つまり、ARMをベースとしたCPUはインテルやAMDのCPUよりも、電力を食わないことで有名です。AppleのCEOであるティムクックはこれをperformance per wattの優れたCPUと呼んでいます。

以前から、このCPUを使ったクラウドというのが大きなテーマになってました。電力を食わないことからエコなデータセンターが作れると言うことです。しかし、いくつかの問題がありました。一つ目は色々なソフトウェアがインテルベースで作られていることです。なのでそのソフトウェアが動かないと使えないのです。二つ目はパフォーマンスです。スマホのCPUであるARMを使って、大規模なコンピュータを使えるのかどうかと言う点です。この2つが最近クリアされつつあります。

2つ目の課題を先に話しますが、富士通の富岳というスーパーコンピュータがARMベースのCPUを使っており、ご存知の通りスパコンの世界で成功しております。スパコンはCPUだけで勝負が決まるわけではないので、それだけで他のCPUよりもARMが優秀だ!とは言えませんが、少なくとも他のCPUと肩を並べたわけです。しかし、スパコンは一般に使われるコンピュータではないので、スパコンで使うソフトウェアだけを移植してしまえば言い訳ですが、一般のデータセンターではいろんなソフトウェアが動かないと使えません。そこで、1番目の課題である、ARMでソフトウェアが使えるのか?という課題が重要になります。

AppleのMacOSと言うオペレーティングシステムは以前はPowerPCと言うCPUで動いていたものを2000年代になって、Intelに置き換えており、さらに今回ARMに置き換えました。この過程で、AppleはソフトウェアがCPUのアーキテクチャの違いでうごかいない問題を経験しております。そこで、インテルのCPUで書かれたソフトウェアを移植する仕組みを実装してM1 Macが2020年末に販売を開始しました。

Apple Silicon M1搭載のPCはこれから2年かけて、IntelからM1に変更されて行きますが、多くの人がこのアーキテクチャが様々なクラウドサービスを動かす基盤となることに期待をしています。マイクロソフトもGoogleもARMアーキテクチャのコンピュータを開発中であることが噂されていますが、AppleのこのCPUの変更が成功するかどうかで今後のデータセンターやクラウドで採用されるコンピュータのアーキテクチャが決まってきます。