月別アーカイブ 8月 2021

投稿者:minoru61

IT業界のパッケージビジネスとは?

SIerではないビジネスを選択した理由」では「The Machine That Changed The World」の概要を少し話して、2つ目の就職先としてはSIerを選択しなかったという話をしました。そして、1992年からSIerではなくパッケージビジネスを展開している会社に就職しました。パッケージビジネスというのは、お客様の要件をまとめてシステムをゼロから作り上げるのではなく、様々なお客様のニーズを取り入れて、ソフトウェアを開発してそれを販売するビジネスのことを言います。

情報システムが利用するパッケージ

例えば、データベース管理システムなどはその一つです。その当時はシステムを開発するためのツールやミドルウェアが多かったのを覚えております。システムを利用する人には直接目に触れないところで使われるツールなどがパッケージとして販売されておりました。お客様はほとんどが情報システム部門でした。情報システム部門はそれを導入して、SIerに構築を依頼し、最終的にシステムが完成します。車で言えば、部品を購入して、自分で組み立てるようなDIYのようなイメージでしょうか?どちらにしても日本の自動車会社が自動車業界で起こしたイノベーションには程遠い状態でした。

その後数年たつと、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージが出てきました。企業の中で必要な会計や人事システムというパッケージを一つに纏めたパッケージでした。これはまさにマスプロダクションの流れであると感じました。しかし、ERPには大きな問題がありました。日系の企業に多かったのですがERPをカスタマイズします。自社の企業にあったようにカスタマイズをして構築をして導入をします。

ERPのカスタマイズがシステムの硬直化を進めた

初期導入においてはカスタマイズは問題ありませんでした。しかし、ソフトウェアにはバージョンアップが伴います。カスタマイズした部分は、バージョンアップするともう一度カスタマイズをしなければなりません。私は主にミドルウェアを専門にやっておりましたので、バージョンアップはERPに比べると簡単にできましたが、ERPはそう簡単ではありませんでした。

様々なERP導入企業のお客様と話をしましたが、企業はカスタマイズをする派としない派の二つに別れました。特に外資系の企業はシステムの担当者がコロコロ変わるので、カスタマイズをしない方が明らかに多かったです。一方で、日本企業は終身雇用の時代でしたので、カスタマイズをした人がいるうちはバージョンアップができるのでエンドユーザの要件に従ってカスタマイズを繰り返していたと思います。

余談ですが、米国にいた時に車をカスタマイズする人が結構いました。私のルームメートはマツダの車を乗っておりましたが、倉庫にエンジンを載せ替える器具を持ち込んでエンジンをVUPしたりしておりました。積み替えた後、数日で動かなくなったので、「素人がやるものではないな」と他人の教訓に学びました。また、友人の一人は3.5Lのシボレーカマロを乗っていたのですが、エンジンを大きくしたいと5.0Lのエンジンに積み替えました。その車のエンジンはポンコツ屋のシェビーバンから積み替えたもので、エンジンが大きすぎて、カムシャフトがエンジンルームに入り切らずに、ボンネットを閉じるときに当たって、中央のところが盛り上がってしまいました。

どちらにしてもカスタマイズというのは意外なところに落とし穴が待っております。高いコストを払ってERPを導入し、カスタマイズにも相当なコストをかけて導入しても、ERPの本体をバージョンアップするたびに再びコストがかかってしまいます。日系企業はいつの間にかバージョンアップを見送るようになっていたのです。

IT業界にもリーンプロダクションの時代がやってくる?

このような経験をする中でも、自動車業界のようなイノベーションはIT業界でも起こせるとずっと考えて実践しました。リーンプロダクションの効果として自動車業界で一つ上がってきていたのは、MPV(Multi Purpose Vehicle)というプラットフォームでした。同じプラットフォームからセダン、ミニバン、SUVなど複数の車を作る方法です。トヨタもIMVとして世界戦略として行っておりました。

私は、ここだ!とばかりソフトウェアもこの考え方を導入しようと思い、MSD(Multi Purpose software Development)というアーキテクチャを考えました。そして実際に作ったのです。ソフトウェアにはかならず必要な部品があります。認証を行う部品、サポートのためのログを溜め込む部品。これらの部品を一つのプラットフォームにして、どのパッケージソフトウェアでも利用できるようにするというものでした。そして実際に作って幾つかの製品に導入しました。考え方は壮大だったのですが、中身が続きませんでした。コストをかけても回収できるだけのもにはほど遠い、そのうちにオープンソースで同様な機能が出てきたので、結局はオープンソースを導入する方が早いということになり、オープンソースの利用は進みましたが、MSDの開発は頓挫しました。

EV時代に入った自動車業界

自動車業界はクラフトプロダクションからマスプロダクション、マスプロダクションからリーンプロダクションへと幾つかのイノベーションを経験してきました。しかし、今、自動車業界で起きているEVのイノベーションはもっと大きな意味を持つでしょう。IT業界はマスプロダクションで止まっています。リーンプロダクションに等しい考え方は、リーンスタートアップの考え方が出てきているので、これを利用して、EVと同様の発想で大きなイノベーションを起こす時代に入ってきていると思います。次回はそのあたりを話したいと思います。

投稿者:minoru61

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(3)

M1 Macの続きです。Appleが2021年度第三四半期(2021年4月〜7月)の決算を発表しました。相変わらず調子がいいですね。

アップル、2021年第3四半期決算発表。iPhone売上は前年同期比で50%増

iPhoneは前年同期比で50%成長しておりますがMacは16%増です。昨年の今頃はまだM1 Macがリリースされておりませんので、まだそんなに売れているようには見えないですが、前期(1〜3月期)を調べてみると70%成長しており、Macだけで3ヶ月で1兆円売り上げを上げています。もちろん、リモートワークの影響は大きいでしょう。

前回の投稿、AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)ではバッテリーが長持ちすることを書きました。バッテリーが長持ちするだけではなく、CPUのファンが唸りません。リモートワークをしているとCPUが「ブーン」や「シャー」という音とともに冷却されることが多いと思いますが、M1 Macはそれを経験したことがありません。M1 Macにはファンレスのものとファンがついているものと2種類ありますが、私はその2種類ともファンが唸ることを体験したことがありません。

その理由はこのブログを読んでください。大変わかりやすく説明してくれております。

M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点

さてこの記事を読んで私が考えていたことは、端末(今回はゲーム機もあるのでPCではなく端末と呼びます)は主流が垂直統合型に向かっているということです。

垂直統合型はイノベーションを加速する

まずは、垂直統合型と水平分散型のビジネスモデルの違いを説明します。水平分散型のビジネスの代表例はパソコンです。パソコンは、CPUはインテル、ディスクはストレージメーカー(HDDとSSDのメーカ)、メモリはサムソンなどの半導体メーカー、そしてOSはWindowsとそれぞれが役割を分担してビジネスを行っております。

次に、垂直統合型のビジネスの典型は自動車業界です。自動車業界では各メーカが系列の部品会社を持っております。例えば、新車Aを設計することになったら、そのAにあう主要部品を系列メーカに設計を依頼します。この時点で、新車Aの部品の発注先は決まってしまいます。これは、自動車の場合には部品と部品の間のすり合わせが重要になります。エンジンの大きさにより車体の形が決まるし、車体の形が決まることで様々な部品に影響するからです。

つまり、設計段階からどんなものを作るのかは企業どうしてすり合わせをしながら設計しなければなりません。そのすり合わせにはもちろんコストも入るわけです。一般的には、水平分散はインタフェースが標準化されており、垂直統合はインタフェースは標準化されてず個別にすり合わせをします。なので、同じ部品を他社に売りにいっても使われることはありません。

標準化はイノベーションを阻害する

水平分散型のビジネスモデルは各部品のメーカが自社の強みを武器に、新規参入を許さない世界が一般的ですが、それはいつまでも続きません。なぜなら、顧客主導のスペック選びは長く続かないからです。例えば、PCのHDDは1TBと2TBとどちらがいいか?という質問に顧客はどう答えるでしょう。PCがコモディティ化をしたことにより、顧客が望む十分なスペックはどのメーカからも出荷することができるようになっています。1TBを超えるPCを必要とする人はほとんどいませんが、1TBを安く作るのは容易です。そして、それはインタフェースが標準化されることでより一層簡単になるのです。コモディティ化は業界の標準化を加速して、業界の標準化は競争を激化します。

これは、イノベーションのジレンマでクレイトン博士が指摘しておりますが、顧客の要望が持続的なイノベーションを優先して、それがそのうちに顧客の要件を十分に満たしてしまうからです。例えば、SSD(Solid State Drive)が世の中に出た当時は、高くて容量が少なくて、そして書き込みの回数に制限があるため、PCメーカからは毛嫌いされました。PCメーカは顧客に自社のPCを選択してもらうためには、ハードディスクを安く仕入れて、大容量のものを出荷したほうがいいからです。よく電気量販店でこのPCは1)メモリが多い、2)CPUは早い、3)ディスクの容量が多いの3つを主張する店員がいるでしょう。これがPCのビジネスを物語っておりました。量販店で「このPCでWeb会議をしたらどれだけファンの音が唸るか試してもらえますか?」と聞く人はいませんからね

イノベーションは案外単純な発想で生まれる

ということはSSDのビジネスは一生立ち上がらないのか?となりますが、そこがポイントです。SSDは書き込みに問題があったので通常のPCのストレージとしては当初は役に立ちませんでしたが、特定の端末にはかなり役立ちました。それは音楽再生端末です。音楽再生端末は書き込みが一回で、再生が何千・何万回となります。一度、入れた音楽を消すことはほとんどありません。SSDのデメリットは音楽再生端末にはデメリットにはなりませんでした。それだけではなく、音楽は思いついた時に再生したいので、SSDの様にスリープモードから再開するのが早いストレージは帰って武器になります。

ここからがイノベーションの始まりです。それが、持続的なイノベーション(ここでは単にイノベーションと書いている場合は、クレイトン博士の破壊的イノベーションを指し、持続的イノベーションと区別ます)により、製品がどんどん成長していきます。現在ではSSDは書き込みの問題は指摘されないぐらいに成長しており、値段も購入可能なレベルにまで安くなってきております。そのため、音楽再生端末がスマホへと進化をとげることができました。スマホが進化する過程で、今後はSSDではなくCPUが課題となります。スマホには音楽再生だけではなく、いろんなアプリケーションが動かなくてはなりません。Appleも最初は市販のARMアーキテクチャを利用しておりましたが、スマホが売れるのに合わせて、CPUも改善していく必要が生まれました。そこで、スマホのCPUを自ら開発始めたのです。それがAxx(xxには数字が入ります)というプロセッサです。A4〜A14までのアップルが設計したCPUはこちらでご覧になれます。しかし、このAxxが開発されている頃は、それがPCで利用できることはありませんでした。Axxはあくまでもスマホのアーキテクチャでした。しかし、それがまたまた持続的なイノベーションが繰り返されて、iPhoneからiPadになり、そしてついにそれをM1としてPCに載せることが可能なレベルまで成長していきました。

M1はこのAxxプロセッサから生まれております。つまり、スマートデバイスのCPUからパソコンのCPUへと進化を始めています。このiPadのOSからM1 Macへ代わるところで、破壊的イノベーションが発生しております。しかし、その原点はiPodでありiPhoneでした。最初の技術的な発想は単純に音楽が再生できる端末でバッテリーが長持ちし、いつでも簡単にスイッチがONできる機器というスペックから始まって、現在のM1 Macに至っております。

半導体は垂直統合で設計・製造されていく

ここからは私見です。冒頭の「M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点」という記事に戻りますが、これからは「CPUはインテル」という時代は終わります。もちろんインテルもSoC(System on a Chip)を作成するでしょう。しかし、PCもゲーム機もインテルがCPUを独占する時代ではなくなります。となると、いかに効率的にSoCを設計して製造できるかということが課題になります。これはちょうど自動車業界の系列でやっていたことです。それを国際的な枠組みでやらなければなりません。インテルはメモリやSSD(またはSSDに変わるもの)を他社と協業して設計・製造できるようにならなければなりません。

台湾のTSMCがこのエリアでは圧倒的に優位になっております。政治家が表面的(金銭的)な関わり方をしておりますが、問題はそこではないと思います。自動車業界の知見を半導体に持ってくることが必要だと思います。インテルはこれまで、CPUを大量生産すれば売れていたわけですが、これからは大量生産ではなく、個別の顧客向けにSoCをパッケージしていかなければなりません。また、売れる個数だけ生産をするというAppleの調達(カンバン方式に似た生産体制)方式も参考にする必要があるでしょう。

上の記事にもあるように、AppleシリコンやPS5で利用されているシリコンには、CPU、GPU、メモリなどがSoCで統合されて作られております。これからさまざまなパターンのSoCが提案されてくるはずです。そうなると、水平統合型のやり方では市場に追いつかなくなります。そのため、いろんなパターンの系列や提携が生まれてくるものと推測しております。

日本は何をなすべきか?

日本の弱点はソフトウェアに弱い所です。垂直統合といっても、端末の場合はオペレーティングシステム(OS)とハードウェアとのすり合わせが必要です。日本はハードウェアにおいてはまだまだ競争力があります。自動車もスマートウォッチも、ゲーム機も、世界の最先端にいます。しかし、ソフトウェアの面で強いのは、ゲームぐらいでしょう。特にOSについては現在日本のOSとして自慢できるものはありません。

その意味では、日本はOSを作るべきだと思います。OSを作るといっても、基本はLinuxでいいわけですから、GoogleのAndroidのように、Linuxベースで、端末固有に機能するOSを作ることが急務だとおもます。政府がお金を出すべきところは半導体の製造部分ではなく、端末のOSだと思います。そして、それは、iPodでの発想ように、機能的に高度なものでなくても構いません。特定の何かの顧客のジョブを解決するためのものであればいいのです。