日別アーカイブ 2021年8月31日

投稿者:minoru61

IT業界のパッケージビジネスとは?

SIerではないビジネスを選択した理由」では「The Machine That Changed The World」の概要を少し話して、2つ目の就職先としてはSIerを選択しなかったという話をしました。そして、1992年からSIerではなくパッケージビジネスを展開している会社に就職しました。パッケージビジネスというのは、お客様の要件をまとめてシステムをゼロから作り上げるのではなく、様々なお客様のニーズを取り入れて、ソフトウェアを開発してそれを販売するビジネスのことを言います。

情報システムが利用するパッケージ

例えば、データベース管理システムなどはその一つです。その当時はシステムを開発するためのツールやミドルウェアが多かったのを覚えております。システムを利用する人には直接目に触れないところで使われるツールなどがパッケージとして販売されておりました。お客様はほとんどが情報システム部門でした。情報システム部門はそれを導入して、SIerに構築を依頼し、最終的にシステムが完成します。車で言えば、部品を購入して、自分で組み立てるようなDIYのようなイメージでしょうか?どちらにしても日本の自動車会社が自動車業界で起こしたイノベーションには程遠い状態でした。

その後数年たつと、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージが出てきました。企業の中で必要な会計や人事システムというパッケージを一つに纏めたパッケージでした。これはまさにマスプロダクションの流れであると感じました。しかし、ERPには大きな問題がありました。日系の企業に多かったのですがERPをカスタマイズします。自社の企業にあったようにカスタマイズをして構築をして導入をします。

ERPのカスタマイズがシステムの硬直化を進めた

初期導入においてはカスタマイズは問題ありませんでした。しかし、ソフトウェアにはバージョンアップが伴います。カスタマイズした部分は、バージョンアップするともう一度カスタマイズをしなければなりません。私は主にミドルウェアを専門にやっておりましたので、バージョンアップはERPに比べると簡単にできましたが、ERPはそう簡単ではありませんでした。

様々なERP導入企業のお客様と話をしましたが、企業はカスタマイズをする派としない派の二つに別れました。特に外資系の企業はシステムの担当者がコロコロ変わるので、カスタマイズをしない方が明らかに多かったです。一方で、日本企業は終身雇用の時代でしたので、カスタマイズをした人がいるうちはバージョンアップができるのでエンドユーザの要件に従ってカスタマイズを繰り返していたと思います。

余談ですが、米国にいた時に車をカスタマイズする人が結構いました。私のルームメートはマツダの車を乗っておりましたが、倉庫にエンジンを載せ替える器具を持ち込んでエンジンをVUPしたりしておりました。積み替えた後、数日で動かなくなったので、「素人がやるものではないな」と他人の教訓に学びました。また、友人の一人は3.5Lのシボレーカマロを乗っていたのですが、エンジンを大きくしたいと5.0Lのエンジンに積み替えました。その車のエンジンはポンコツ屋のシェビーバンから積み替えたもので、エンジンが大きすぎて、カムシャフトがエンジンルームに入り切らずに、ボンネットを閉じるときに当たって、中央のところが盛り上がってしまいました。

どちらにしてもカスタマイズというのは意外なところに落とし穴が待っております。高いコストを払ってERPを導入し、カスタマイズにも相当なコストをかけて導入しても、ERPの本体をバージョンアップするたびに再びコストがかかってしまいます。日系企業はいつの間にかバージョンアップを見送るようになっていたのです。

IT業界にもリーンプロダクションの時代がやってくる?

このような経験をする中でも、自動車業界のようなイノベーションはIT業界でも起こせるとずっと考えて実践しました。リーンプロダクションの効果として自動車業界で一つ上がってきていたのは、MPV(Multi Purpose Vehicle)というプラットフォームでした。同じプラットフォームからセダン、ミニバン、SUVなど複数の車を作る方法です。トヨタもIMVとして世界戦略として行っておりました。

私は、ここだ!とばかりソフトウェアもこの考え方を導入しようと思い、MSD(Multi Purpose software Development)というアーキテクチャを考えました。そして実際に作ったのです。ソフトウェアにはかならず必要な部品があります。認証を行う部品、サポートのためのログを溜め込む部品。これらの部品を一つのプラットフォームにして、どのパッケージソフトウェアでも利用できるようにするというものでした。そして実際に作って幾つかの製品に導入しました。考え方は壮大だったのですが、中身が続きませんでした。コストをかけても回収できるだけのもにはほど遠い、そのうちにオープンソースで同様な機能が出てきたので、結局はオープンソースを導入する方が早いということになり、オープンソースの利用は進みましたが、MSDの開発は頓挫しました。

EV時代に入った自動車業界

自動車業界はクラフトプロダクションからマスプロダクション、マスプロダクションからリーンプロダクションへと幾つかのイノベーションを経験してきました。しかし、今、自動車業界で起きているEVのイノベーションはもっと大きな意味を持つでしょう。IT業界はマスプロダクションで止まっています。リーンプロダクションに等しい考え方は、リーンスタートアップの考え方が出てきているので、これを利用して、EVと同様の発想で大きなイノベーションを起こす時代に入ってきていると思います。次回はそのあたりを話したいと思います。