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投稿者:minoru61

Windows 11は成功するのか?

パーソナルコンピュータの業界ではこの1年動きが激しくなってきております。それはソフトウェアだけではなくハードウェアに至るまで様々な変化が発生しております。

既に紹介したようにAppleから衝撃的なアナウンスが出て約1年です。Appleから販売される全てのコンピュータをApple Siliconに置き換えるとアナウンスされたのは、2020年のWWDCのことでした。あれから1年、Appleは予定通り、Apple SiliconのM1を搭載したMac MiniとMacbook Airを年末にリリースしました。そしてそれから少し遅れてiMacもリリースしました。この反響は相当なものです。Appleの株価は過去最高値をつけて、次のM1XやM2というApple Siliconの噂まで出てきております。

マイクロソフトはどう動くのか?

スマホのマーケットは別として、PCのマーケットはいまだにWindowsが主流です。こちらのサイトでは、2021年6月時点でのデスクトップマーケットでは73%弱がWindows OSとなっており、MacOSの16%弱からすると圧倒的なシェアを誇っています。

近年、Appleの垂直統合というビジネスモデルを多くの企業がマネをする方向に向かっております。スマホのシェアにおいてはAppleはシャオミに抜かれて3位になったという報道がありましたが、スマホから得られている利益についてはAppleは圧倒的に一人勝ちをしております。これは垂直統合のモデルにあるというのが大方の味方ですが、私はその奥にもっと重要な真実があると考えております。(これについてはまたの機会にします)

一方でマイクロソフトはパソコンの水平分散型のビジネスモデルでWindowsのシェアを伸ばしてきているため、今更上記のような圧倒的シェアを投げ打って垂直統合に向くことは不可能でしょう。つまり、Windowsとしては今までと同じように、ハードウェアのパートナーという優良顧客をベースとしたビジネスモデルが主流になるものと思われます。Surface Proなどのマイクロソフト製のハードウェアを作っておりますが、これをビジネスの主流にしてしまうと、OSのマーケットシェアが減少していくと思われます。なぜならハードウェアベンダーがマイクロソフトを競合とみなすからです。ここにクレイトン博士がいう「イノベーションのジレンマ」があるわけです。

もしもまだ読まれていない方がおられましたら読むことをお勧めします。Appleのジョブズも参考にしていたと噂される本ですので、AppleやMicorsoftの今後の動きを見るには大変参考になります。

マイクロソフトはハードウェアにどこまで干渉できるのか?

マイクロソフトはWindows11でハードウェアのスペックに対して干渉を始めています。

Windows 11、TPM 2.0 チップを搭載 ハードウェアベースでセキュリティ保護を実現

これはこれまでと同じで、ある程度のWindows標準のハードウェアスペックを描きながらWindowsというOSが進化していきます。WindowsにとってはハードウェアメーカーはWindowsのバリューチェーンに組み込まれているからです。イノベーションのジレンマの著者であるクレイトン・クリステンセンはこのバリューチェーンこそがイノベーションのジレンマであると言います。既存のバリューチェーンがイノベーションを阻害することが多いということです。自動車会社にとってのディーラーもそうです。サブスクモデルに移行したいのだが、自動車のディーラーはサブスクモデルになると売り上げが短期的に大きく減ってしまいます。マイクロソフトがSurface Proにパワーシフトができないのは、既存の優良なバリューチェーンを壊すことができないからに他なりません。

Apple Siliconに代表されるようにクライアント端末はARMアーキテクチャに動き始めておりますが、WindowsがARMアーキテクチャに動き出すのはいつになるでしょうか?先日、以下の投稿をしましたが、各社ARMアーキテクチャに動き始めています。

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)

マイクロソフトが同じようにARMをベースとしたSoCに動くのであれば、Windowsがやらなければならないことは沢山あります。例えば、AIのライブラリをSoCに合わせてアプデするなどが必要となります。AppleやGoogleは自社のSoCに対応したPythonのライブラリなどを開発しているという噂もありますので、完全にARMベースのSoCでWindowsのOSを動かすためにはまだまだやることがいっぱいあるはずです。

マイクロソフトが「Windwos11が動くSilliconはQS、NS、GS、ISだけですよ!」とSilliconの指定をしてしまうと今度はハードウェアメーカーの存在意義がなくなってしまいます。ハードウェアメーカーは製造するだけの会社となってしまうでしょう。そうするとほとんどAppleが行っている垂直統合のビジネスモデルと変わらなくなってしまいます。

さて、これからマイクロソフトとハードウェアメーカーとの関係はどのように変わっていくのでしょうか?

投稿者:minoru61

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)

Apple Siliconが搭載されたM1 Macが発売されてから半年が経ちました。最近になって、ARMアーキテクチャのCPU開発がかなりホットな話題となっています。少し前後はしますが、ほぼ時系列に見ていきましょう。

マイクロソフトはQualcomとARMアーキテクチャのCPUの開発を行なっていると噂されていました。(2020年12月)

MicrosoftがArmベースのチップを自社設計との報道

そしてこのことは先日Qualcommからも開発しているという情報が発信されました。(2021年7月)

QualcommがAppleのM1に対抗するチップセットを独自に開発へ

しかし、これだけではありません。Qualcommの発表とほぼ同時にNVIDIAがARMベースのCPUをサポートすることを発表しています。(2021年7月)

NVIDIA、プラットフォーム「AI-on-5G」でArmベースCPUをサポート

これは驚くべき出来事ではありませんでした。何故ならARMはNVIDIAの傘下になっているからです。(2020年9月)

NVIDIAがArmをソフトバンクグループから4.2兆円超で買収

しかし、いまだにこの買収には異論が出ております。Qualcomm「異議あり!」(2021年2月)

Qualcomm、NvidiaによるARM買収に「異議あり」

英国政府の介入(2021年4月)

英政府、NVIDIAのArm買収に介入

ARMは元々は英国の企業でした。ソフトバンクグループが2016年に3.3兆円でそれを買収しました。

【3.3兆円】ソフトバンクはなぜARMを買収するのか?

異論が出ているということは、一緒にビジネスをしたいとラブコールを送る会社もあるということでしょう。英国政府の介入は表向きは安全保障上の問題ということですが、このシリコンの重要性が増しているということでもあります。

一方、NVIDIAはGPU(Graphics Processing Unit)で有名な会社です。GPUとは画像処理などをおこなう場合、浮動小数点の計算をかなり使うので、通常のCPUとは違った能力が必要となることから開発されてきたものです。そして、それが計算処理の多い人工知能にも活用できるということで、現在では人工知能の処理にも使われております。しかし、AppleのM1は、このGPUも自社で開発を行なっており、NVIDIAとしては脅威に感じてARM買収を決断したのでしょう。

Appleとスマホビジネスで切磋琢磨をしているGoogleも例外ではありません。(2021年4月)

Google Pixel 6が自社設計8コアARMチップを搭載か

GS(Google Silicon)と呼ぶそうです。Googleは以前からTPU(Tensorflow Processing Unit)という人工知能専用のSiliconを開発しておリます。深層学習などを使う人工知能では大量の計算をしなければならないことがあります。Tensorとは多次元配列のことで、深層学習では、この多次元配列掛け算をします。数学(線形代数)の得意な人はわかると思いますが、多次元配列×多次元配列のような2層(深層学習の深層とはこれを何重にも重ねること)の掛け算でもかなりのデータを処理が必要となります。それゆえに通常のCPUでは間に合わないような計算が必要になります。

役者は揃っているように見えますが何故ここまでARM界隈にいろんなアクションが出てくるのでしょうか?幾つかの理由があると思いますが、今日はその一つであると思われることを話します。ズバリ、全力消費です。

それは以下の記事が参考になるでしょう。アマゾンウェブサービスがM1 Macをクラウドで活用することがすでに発表されております。しかも、M1 Macが発売されたすぐ後です。(2020年12月)

AWSがMacインスタンスを提供開始

Apple M1はnotebookやデスクトップのSiliconです。クラウドのようにサーバを扱うにはまだまだスペックは足りません。Appleはさまざまなアナウンスを秘密裏に進める会社として有名でが、この発表は発売してすぐ後に行われています。考えられるのは2つで、かなり前からAppleとアマゾンが話をしていたのか?それともアマゾンが単属でビジネスになると踏み切ってAppleからハードウェアを調達することを決めたかです。

クラウドベンダーが使うハードウェアはコストを下げるために、通常は自作のハードウェアを利用することが多く、特にAppleのようなハードウェアを正規価格でしか販売しないところからは調達することはなかなか考えられません。しかし、そこまで価値があると見ているということでしょう。その価値は電力の消費量だと私は思います。

現在データセンターやクラウド事業者の間では、SDG’sなどの対応の追われていると思います。クラウドのサーバは増え続けており、そのため必要な電力も増え続けているはずです。Performance per wattという言葉をAppleのCEOのティム・クックが昨年のWWDC2020で仕切りに話していたのはそこにあります。そして実現したApple Siliconはアップルの重役も驚くほどのものだったということです。(2021年7月)

アップル幹部、M1 MacBookのバッテリー持ちが良すぎて「バグだと思った」と振り返る

Apple Siliconは只者ではないことがわかるかと思います。

(ちなみに、本日、喫茶店にて4時間、youtubeでWeb開発の動画をみたり、このブログを書いたりしておりますが、バッテリーはまだ80%あります。消費量は5%/hですね。M1 Macbook Airを使い始めてから、電源コードを持ち歩くことはほとんどなくなりました)