コロナ禍でいろんなものが品不足に直面しました。最初はマスクでした。マスクの影響でトイレットペーパーまで不足しておりました。今は、ドラッグストアやスパーにいくと簡単に手が入ります。そしていろんな会社がマスクが余っているために、差別化をしようとしてます。JIS適合マスクなどと言って売り始めました。品質の悪いマスクが一時的に発生したとかで、基準満たすマスクということで差別化しています。
次にワクチン不足が世界的に騒がれました。日本でも若者にはまだ行き渡らないということで、接種会場に行列ができるほどワクチン不足が続いております。世界的には先進国が優先しているということで批判まで受けました。ワクチン不足は徐々に解決しておりますが、世界全体に行き渡るまでまだまだ時間がかかりそうです。
コロナ禍でもう一つ不足しているものがあります。それは半導体です。なんで、コロナ禍で半導体が関係あるの?と考える人がいるかもしれません。マスクやワクチンはコロナと直接関係があるのですぐに頭に浮かぶと思いますが、半導体は浮かびません。また、浮かんだとしても、半導体を直接、つけたり、うったりするわけではないので消費者にはその影響度がわかりません。その影響度を本日は話します。
昨年(2020年)4月から私はとある企業の情報システム部を任されておりました。それまでは事業部門でソフトウェアを販売する側だったので、この1年間の経験は私にとって何者にも変え難いものになりました。2020年4月にシステム部長に就任する前に、1年ほど事業部をやりながらシステム部を兼務で見ておりましたが、その間にネットワークの再構築をしていました。最近はクラウドではSDN(Software Defined Network)と言って、ネットワークをソフトウェアによって自由にネットワークを作れるようになりました。(ここを詳しく話していると長くなるので、そういうものだと思ってください)
企業内でも、SD-WAN(Software Defined Wide Area Network)というのが流行っておりましたので、2019年度からネットワークの構築をやっておりましたが、2020年4月に緊急事態宣言が発令されたため、SD-WANを急遽、ゼロトラストネットワーク(これも長くなるので、別途説明します)の構築に切り替えて、社員が会社に来なくてもセキュリティが確保できるようなネットワークを構築していました。2020年度はそのネットワークをグループ会社などに展開をして、本社でも、グループ会社の事務所でも、ソフトウェアで設定を変えることで、自分が参加できるLANが構築できる環境を作りました。
そして、ゼロトラストによりセキュリティが十分に確保できることで、PCのBYOD化を会社として推進してきました。しかし、なかなか全てのPCをBYODにすることも難しく、希望する社員だけにBYODを許可し、それ以外は会社でPCを支給することにしておりました。2020年4月ごろから、PCのメーカーから在庫が少ないなどの話がありました。そうです。コロナ禍の中でまずはPCの需要が増えたのです。
これはまずいと気づき、2021年度の新人のPCを調達する時に、社内の古いPCも入れ替えも含めて、2020年の11月ごろから、メーカー選定をしておりました。2社に見積もりを依頼していたところ、1社からは全く音沙汰がなくなりました。もう一方は、以前からの付き合いもあったので、見積もりを取ることができました。しかし、そのPCメーカーからは1ヶ月以上かかると言われたのです。もう一社も見積もりをもらって比較したかったのですが、その暇もなく1社目のメーカーに発注せざるを得ませんでした。その原因は半導体不足の影響だったのです。
話は変わりますが、そういう話をしていたときに、長男がPlay Stationが手に入らないと大騒ぎしておりました。それから知ったのですが、ソニーはPlay Station 5を昨年の11月に販売開始しておりました。長男に話をしたのは、3月ごろでしたので、5ヶ月も需要があるにも関わらず販売ができていないという状態でした。そして、その問題も半導体不足にあることに気づきました。
そこから半導体について色々調べてみましたが、半導体は2種類に別れており、高度な技術を必要とする高級な半導体と一般的なメモリなどのような低価格の半導体です。高級半導体はほとんどが台湾で製造されており、安価な半導体は中国などで製造されておりました。実はこの両方の半導体が同時に不足をしていました。
台湾といえばAppleのM1シリコンです。アップルは2020年11月にM1シリコン搭載のMacbookやMac miniが販売されました。インテルのCPUをやめて、全てARMベースのCPUに切り替えるという戦略に出ておりますが、このM1シリコンも台湾のTSMCで作られています。Appleは、設計だけをして製造は他社に任せる、いわゆるファブレスと呼ばれる製造工場を持たないビジネスモデルをしております。※AppleのM1についてはこちらを参考にしてください。
Appleのシリコンだけ不足するのであれば問題ないだろうと思っていたのですが、前述のソニーのPlay Station 5で作成している高機能のCPUも台湾のメーカー、それもほとんどがTSMCで製造されていることに気づきました。TSMCは高級半導体を製造する技術を持った世界ーのカンパニーです。
当のソニーは巣篭もり需要でゲームの販売が好調で、2020年3月期の決算は利益1兆円を達成しておりますが、「これは来年(2021年3月期)のソニーの決算は楽しみだね」と考えながらPS5の販売がいつ開始されるのかを注意深くみていたところ、今月(2021年9月)にやっと、ソニーストアで抽選開始という記事を見つけました。なんと、6ヶ月もの間、販売はおろか、購入する権利を獲得するための抽選も止まっていたのです。
この間にいろんなことが起きました。米国の連邦政府が、TSMCを初め、米国の半導体関連企業を呼んで、これは経済的には相当のリスクだということで、半導体不足を解決するための方法を協議しました。
米政権、12日に企業トップと会合-インフラや半導体を協議へ (訂正)
ここにはフォードやゼネラルモーターズ(GM)などの自動車企業も招かれております。今や電気自動車や自動運転車を目指している自動車産業は半導体の塊が動いているようなものです。つまり、PCやスマホなどのような端末だけではなく、自動車、ネットワーク機器などありとあらゆるものに半導体が使われております。前述のソニーも実は自動車を設計しているのです。設計と言っているのは、電気自動車のプロトタイプ「VISION-S Prototype」を作っておりますが、ソニーは自社が開発する半導体であるCMOSイメージセンサーの開発をするために自ら自動車を設計して実験すると言っており、自動車をソニーが販売するかどうかはわかりません。
ソニーの電気自動車「VISION-S Prototype」国内初の一般公開
ある意味、ソニーは自動車の部品会社として手を上げるために、Appleが推進してきた垂直統合ビジネスを同じ経験を積むことで、部品の制度を上げることを考えていると思います。
自動車業界はこれから電気自動車や自動運転車など高い精度を必要とする半導体が必要になってきております。5Gを推進している通信会社も半導体不足に直面するでしょう。アップルは半導体不足の影響で一時株価を下げましたが、9月の新製品の販売に向けて再び過去最高の株価レベルに上がってきております。
iPhoneにも半導体不足の波 Apple、7~9月の成長減速
ソニーはPS5など、半導体不足の影響を直接受けております。もしも、半導体不足でなかったら、どれだけの利益を稼いでいたのか、本当に楽しみになります。
また、半導体不足は半導体メーカーだけの問題ではないです。味の素など半導体の絶縁材メーカーなども半導体需要の高まりで供給がまに合わない状態になっております。
味の素、ギョーザだけじゃない 半導体材料でもう一つの「金メダル」
現在の半導体はより小さくより多くの回路を実装するために、微細化だけではなく、多重構造になっているそうで、絶縁材の品質が直接半導体の製造に影響してくるようです。
もちろん製造装置メーカーや半導体検査装置のメーカーなど、自動車と同じく非常に複雑なバリューチェーンが既に出来上がっているので、この影響は続くと思います。
もちろん、情報システム部門の方も影響を受けるでしょう。PCの調達だけではありません。サーバーのコストも上がるものと考えております。大手クラウドベンダーはハードウェアをメーカーから調達せずに、部品を購入して自作しているところが多いです。そのため、部品が調達できないと需要が供給を上回りコストが上がることが予想されます。それでは、オンプレに戻すか?ということを考える人もいるかもしれませんが、サーバーを作るメーカーも半導体不足により、価格を上げてくるでしょう。そして、この傾向はこれからも続くと思います。
「SIerではないビジネスを選択した理由」では「The Machine That Changed The World」の概要を少し話して、2つ目の就職先としてはSIerを選択しなかったという話をしました。そして、1992年からSIerではなくパッケージビジネスを展開している会社に就職しました。パッケージビジネスというのは、お客様の要件をまとめてシステムをゼロから作り上げるのではなく、様々なお客様のニーズを取り入れて、ソフトウェアを開発してそれを販売するビジネスのことを言います。
例えば、データベース管理システムなどはその一つです。その当時はシステムを開発するためのツールやミドルウェアが多かったのを覚えております。システムを利用する人には直接目に触れないところで使われるツールなどがパッケージとして販売されておりました。お客様はほとんどが情報システム部門でした。情報システム部門はそれを導入して、SIerに構築を依頼し、最終的にシステムが完成します。車で言えば、部品を購入して、自分で組み立てるようなDIYのようなイメージでしょうか?どちらにしても日本の自動車会社が自動車業界で起こしたイノベーションには程遠い状態でした。
その後数年たつと、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージが出てきました。企業の中で必要な会計や人事システムというパッケージを一つに纏めたパッケージでした。これはまさにマスプロダクションの流れであると感じました。しかし、ERPには大きな問題がありました。日系の企業に多かったのですがERPをカスタマイズします。自社の企業にあったようにカスタマイズをして構築をして導入をします。
初期導入においてはカスタマイズは問題ありませんでした。しかし、ソフトウェアにはバージョンアップが伴います。カスタマイズした部分は、バージョンアップするともう一度カスタマイズをしなければなりません。私は主にミドルウェアを専門にやっておりましたので、バージョンアップはERPに比べると簡単にできましたが、ERPはそう簡単ではありませんでした。
様々なERP導入企業のお客様と話をしましたが、企業はカスタマイズをする派としない派の二つに別れました。特に外資系の企業はシステムの担当者がコロコロ変わるので、カスタマイズをしない方が明らかに多かったです。一方で、日本企業は終身雇用の時代でしたので、カスタマイズをした人がいるうちはバージョンアップができるのでエンドユーザの要件に従ってカスタマイズを繰り返していたと思います。
余談ですが、米国にいた時に車をカスタマイズする人が結構いました。私のルームメートはマツダの車を乗っておりましたが、倉庫にエンジンを載せ替える器具を持ち込んでエンジンをVUPしたりしておりました。積み替えた後、数日で動かなくなったので、「素人がやるものではないな」と他人の教訓に学びました。また、友人の一人は3.5Lのシボレーカマロを乗っていたのですが、エンジンを大きくしたいと5.0Lのエンジンに積み替えました。その車のエンジンはポンコツ屋のシェビーバンから積み替えたもので、エンジンが大きすぎて、カムシャフトがエンジンルームに入り切らずに、ボンネットを閉じるときに当たって、中央のところが盛り上がってしまいました。
どちらにしてもカスタマイズというのは意外なところに落とし穴が待っております。高いコストを払ってERPを導入し、カスタマイズにも相当なコストをかけて導入しても、ERPの本体をバージョンアップするたびに再びコストがかかってしまいます。日系企業はいつの間にかバージョンアップを見送るようになっていたのです。
このような経験をする中でも、自動車業界のようなイノベーションはIT業界でも起こせるとずっと考えて実践しました。リーンプロダクションの効果として自動車業界で一つ上がってきていたのは、MPV(Multi Purpose Vehicle)というプラットフォームでした。同じプラットフォームからセダン、ミニバン、SUVなど複数の車を作る方法です。トヨタもIMVとして世界戦略として行っておりました。
私は、ここだ!とばかりソフトウェアもこの考え方を導入しようと思い、MSD(Multi Purpose software Development)というアーキテクチャを考えました。そして実際に作ったのです。ソフトウェアにはかならず必要な部品があります。認証を行う部品、サポートのためのログを溜め込む部品。これらの部品を一つのプラットフォームにして、どのパッケージソフトウェアでも利用できるようにするというものでした。そして実際に作って幾つかの製品に導入しました。考え方は壮大だったのですが、中身が続きませんでした。コストをかけても回収できるだけのもにはほど遠い、そのうちにオープンソースで同様な機能が出てきたので、結局はオープンソースを導入する方が早いということになり、オープンソースの利用は進みましたが、MSDの開発は頓挫しました。
自動車業界はクラフトプロダクションからマスプロダクション、マスプロダクションからリーンプロダクションへと幾つかのイノベーションを経験してきました。しかし、今、自動車業界で起きているEVのイノベーションはもっと大きな意味を持つでしょう。IT業界はマスプロダクションで止まっています。リーンプロダクションに等しい考え方は、リーンスタートアップの考え方が出てきているので、これを利用して、EVと同様の発想で大きなイノベーションを起こす時代に入ってきていると思います。次回はそのあたりを話したいと思います。
M1 Macの続きです。Appleが2021年度第三四半期(2021年4月〜7月)の決算を発表しました。相変わらず調子がいいですね。
アップル、2021年第3四半期決算発表。iPhone売上は前年同期比で50%増
iPhoneは前年同期比で50%成長しておりますがMacは16%増です。昨年の今頃はまだM1 Macがリリースされておりませんので、まだそんなに売れているようには見えないですが、前期(1〜3月期)を調べてみると70%成長しており、Macだけで3ヶ月で1兆円売り上げを上げています。もちろん、リモートワークの影響は大きいでしょう。
前回の投稿、AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)ではバッテリーが長持ちすることを書きました。バッテリーが長持ちするだけではなく、CPUのファンが唸りません。リモートワークをしているとCPUが「ブーン」や「シャー」という音とともに冷却されることが多いと思いますが、M1 Macはそれを経験したことがありません。M1 Macにはファンレスのものとファンがついているものと2種類ありますが、私はその2種類ともファンが唸ることを体験したことがありません。
その理由はこのブログを読んでください。大変わかりやすく説明してくれております。
M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点
さてこの記事を読んで私が考えていたことは、端末(今回はゲーム機もあるのでPCではなく端末と呼びます)は主流が垂直統合型に向かっているということです。
まずは、垂直統合型と水平分散型のビジネスモデルの違いを説明します。水平分散型のビジネスの代表例はパソコンです。パソコンは、CPUはインテル、ディスクはストレージメーカー(HDDとSSDのメーカ)、メモリはサムソンなどの半導体メーカー、そしてOSはWindowsとそれぞれが役割を分担してビジネスを行っております。
次に、垂直統合型のビジネスの典型は自動車業界です。自動車業界では各メーカが系列の部品会社を持っております。例えば、新車Aを設計することになったら、そのAにあう主要部品を系列メーカに設計を依頼します。この時点で、新車Aの部品の発注先は決まってしまいます。これは、自動車の場合には部品と部品の間のすり合わせが重要になります。エンジンの大きさにより車体の形が決まるし、車体の形が決まることで様々な部品に影響するからです。
つまり、設計段階からどんなものを作るのかは企業どうしてすり合わせをしながら設計しなければなりません。そのすり合わせにはもちろんコストも入るわけです。一般的には、水平分散はインタフェースが標準化されており、垂直統合はインタフェースは標準化されてず個別にすり合わせをします。なので、同じ部品を他社に売りにいっても使われることはありません。
水平分散型のビジネスモデルは各部品のメーカが自社の強みを武器に、新規参入を許さない世界が一般的ですが、それはいつまでも続きません。なぜなら、顧客主導のスペック選びは長く続かないからです。例えば、PCのHDDは1TBと2TBとどちらがいいか?という質問に顧客はどう答えるでしょう。PCがコモディティ化をしたことにより、顧客が望む十分なスペックはどのメーカからも出荷することができるようになっています。1TBを超えるPCを必要とする人はほとんどいませんが、1TBを安く作るのは容易です。そして、それはインタフェースが標準化されることでより一層簡単になるのです。コモディティ化は業界の標準化を加速して、業界の標準化は競争を激化します。
これは、イノベーションのジレンマでクレイトン博士が指摘しておりますが、顧客の要望が持続的なイノベーションを優先して、それがそのうちに顧客の要件を十分に満たしてしまうからです。例えば、SSD(Solid State Drive)が世の中に出た当時は、高くて容量が少なくて、そして書き込みの回数に制限があるため、PCメーカからは毛嫌いされました。PCメーカは顧客に自社のPCを選択してもらうためには、ハードディスクを安く仕入れて、大容量のものを出荷したほうがいいからです。よく電気量販店でこのPCは1)メモリが多い、2)CPUは早い、3)ディスクの容量が多いの3つを主張する店員がいるでしょう。これがPCのビジネスを物語っておりました。量販店で「このPCでWeb会議をしたらどれだけファンの音が唸るか試してもらえますか?」と聞く人はいませんからね
ということはSSDのビジネスは一生立ち上がらないのか?となりますが、そこがポイントです。SSDは書き込みに問題があったので通常のPCのストレージとしては当初は役に立ちませんでしたが、特定の端末にはかなり役立ちました。それは音楽再生端末です。音楽再生端末は書き込みが一回で、再生が何千・何万回となります。一度、入れた音楽を消すことはほとんどありません。SSDのデメリットは音楽再生端末にはデメリットにはなりませんでした。それだけではなく、音楽は思いついた時に再生したいので、SSDの様にスリープモードから再開するのが早いストレージは帰って武器になります。
ここからがイノベーションの始まりです。それが、持続的なイノベーション(ここでは単にイノベーションと書いている場合は、クレイトン博士の破壊的イノベーションを指し、持続的イノベーションと区別ます)により、製品がどんどん成長していきます。現在ではSSDは書き込みの問題は指摘されないぐらいに成長しており、値段も購入可能なレベルにまで安くなってきております。そのため、音楽再生端末がスマホへと進化をとげることができました。スマホが進化する過程で、今後はSSDではなくCPUが課題となります。スマホには音楽再生だけではなく、いろんなアプリケーションが動かなくてはなりません。Appleも最初は市販のARMアーキテクチャを利用しておりましたが、スマホが売れるのに合わせて、CPUも改善していく必要が生まれました。そこで、スマホのCPUを自ら開発始めたのです。それがAxx(xxには数字が入ります)というプロセッサです。A4〜A14までのアップルが設計したCPUはこちらでご覧になれます。しかし、このAxxが開発されている頃は、それがPCで利用できることはありませんでした。Axxはあくまでもスマホのアーキテクチャでした。しかし、それがまたまた持続的なイノベーションが繰り返されて、iPhoneからiPadになり、そしてついにそれをM1としてPCに載せることが可能なレベルまで成長していきました。
M1はこのAxxプロセッサから生まれております。つまり、スマートデバイスのCPUからパソコンのCPUへと進化を始めています。このiPadのOSからM1 Macへ代わるところで、破壊的イノベーションが発生しております。しかし、その原点はiPodでありiPhoneでした。最初の技術的な発想は単純に音楽が再生できる端末でバッテリーが長持ちし、いつでも簡単にスイッチがONできる機器というスペックから始まって、現在のM1 Macに至っております。
ここからは私見です。冒頭の「M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点」という記事に戻りますが、これからは「CPUはインテル」という時代は終わります。もちろんインテルもSoC(System on a Chip)を作成するでしょう。しかし、PCもゲーム機もインテルがCPUを独占する時代ではなくなります。となると、いかに効率的にSoCを設計して製造できるかということが課題になります。これはちょうど自動車業界の系列でやっていたことです。それを国際的な枠組みでやらなければなりません。インテルはメモリやSSD(またはSSDに変わるもの)を他社と協業して設計・製造できるようにならなければなりません。
台湾のTSMCがこのエリアでは圧倒的に優位になっております。政治家が表面的(金銭的)な関わり方をしておりますが、問題はそこではないと思います。自動車業界の知見を半導体に持ってくることが必要だと思います。インテルはこれまで、CPUを大量生産すれば売れていたわけですが、これからは大量生産ではなく、個別の顧客向けにSoCをパッケージしていかなければなりません。また、売れる個数だけ生産をするというAppleの調達(カンバン方式に似た生産体制)方式も参考にする必要があるでしょう。
上の記事にもあるように、AppleシリコンやPS5で利用されているシリコンには、CPU、GPU、メモリなどがSoCで統合されて作られております。これからさまざまなパターンのSoCが提案されてくるはずです。そうなると、水平統合型のやり方では市場に追いつかなくなります。そのため、いろんなパターンの系列や提携が生まれてくるものと推測しております。
日本の弱点はソフトウェアに弱い所です。垂直統合といっても、端末の場合はオペレーティングシステム(OS)とハードウェアとのすり合わせが必要です。日本はハードウェアにおいてはまだまだ競争力があります。自動車もスマートウォッチも、ゲーム機も、世界の最先端にいます。しかし、ソフトウェアの面で強いのは、ゲームぐらいでしょう。特にOSについては現在日本のOSとして自慢できるものはありません。
その意味では、日本はOSを作るべきだと思います。OSを作るといっても、基本はLinuxでいいわけですから、GoogleのAndroidのように、Linuxベースで、端末固有に機能するOSを作ることが急務だとおもます。政府がお金を出すべきところは半導体の製造部分ではなく、端末のOSだと思います。そして、それは、iPodでの発想ように、機能的に高度なものでなくても構いません。特定の何かの顧客のジョブを解決するためのものであればいいのです。
パーソナルコンピュータの業界ではこの1年動きが激しくなってきております。それはソフトウェアだけではなくハードウェアに至るまで様々な変化が発生しております。
既に紹介したようにAppleから衝撃的なアナウンスが出て約1年です。Appleから販売される全てのコンピュータをApple Siliconに置き換えるとアナウンスされたのは、2020年のWWDCのことでした。あれから1年、Appleは予定通り、Apple SiliconのM1を搭載したMac MiniとMacbook Airを年末にリリースしました。そしてそれから少し遅れてiMacもリリースしました。この反響は相当なものです。Appleの株価は過去最高値をつけて、次のM1XやM2というApple Siliconの噂まで出てきております。
スマホのマーケットは別として、PCのマーケットはいまだにWindowsが主流です。こちらのサイトでは、2021年6月時点でのデスクトップマーケットでは73%弱がWindows OSとなっており、MacOSの16%弱からすると圧倒的なシェアを誇っています。
近年、Appleの垂直統合というビジネスモデルを多くの企業がマネをする方向に向かっております。スマホのシェアにおいてはAppleはシャオミに抜かれて3位になったという報道がありましたが、スマホから得られている利益についてはAppleは圧倒的に一人勝ちをしております。これは垂直統合のモデルにあるというのが大方の味方ですが、私はその奥にもっと重要な真実があると考えております。(これについてはまたの機会にします)
一方でマイクロソフトはパソコンの水平分散型のビジネスモデルでWindowsのシェアを伸ばしてきているため、今更上記のような圧倒的シェアを投げ打って垂直統合に向くことは不可能でしょう。つまり、Windowsとしては今までと同じように、ハードウェアのパートナーという優良顧客をベースとしたビジネスモデルが主流になるものと思われます。Surface Proなどのマイクロソフト製のハードウェアを作っておりますが、これをビジネスの主流にしてしまうと、OSのマーケットシェアが減少していくと思われます。なぜならハードウェアベンダーがマイクロソフトを競合とみなすからです。ここにクレイトン博士がいう「イノベーションのジレンマ」があるわけです。
もしもまだ読まれていない方がおられましたら読むことをお勧めします。Appleのジョブズも参考にしていたと噂される本ですので、AppleやMicorsoftの今後の動きを見るには大変参考になります。
マイクロソフトはWindows11でハードウェアのスペックに対して干渉を始めています。
Windows 11、TPM 2.0 チップを搭載 ハードウェアベースでセキュリティ保護を実現
これはこれまでと同じで、ある程度のWindows標準のハードウェアスペックを描きながらWindowsというOSが進化していきます。WindowsにとってはハードウェアメーカーはWindowsのバリューチェーンに組み込まれているからです。イノベーションのジレンマの著者であるクレイトン・クリステンセンはこのバリューチェーンこそがイノベーションのジレンマであると言います。既存のバリューチェーンがイノベーションを阻害することが多いということです。自動車会社にとってのディーラーもそうです。サブスクモデルに移行したいのだが、自動車のディーラーはサブスクモデルになると売り上げが短期的に大きく減ってしまいます。マイクロソフトがSurface Proにパワーシフトができないのは、既存の優良なバリューチェーンを壊すことができないからに他なりません。
Apple Siliconに代表されるようにクライアント端末はARMアーキテクチャに動き始めておりますが、WindowsがARMアーキテクチャに動き出すのはいつになるでしょうか?先日、以下の投稿をしましたが、各社ARMアーキテクチャに動き始めています。
マイクロソフトが同じようにARMをベースとしたSoCに動くのであれば、Windowsがやらなければならないことは沢山あります。例えば、AIのライブラリをSoCに合わせてアプデするなどが必要となります。AppleやGoogleは自社のSoCに対応したPythonのライブラリなどを開発しているという噂もありますので、完全にARMベースのSoCでWindowsのOSを動かすためにはまだまだやることがいっぱいあるはずです。
マイクロソフトが「Windwos11が動くSilliconはQS、NS、GS、ISだけですよ!」とSilliconの指定をしてしまうと今度はハードウェアメーカーの存在意義がなくなってしまいます。ハードウェアメーカーは製造するだけの会社となってしまうでしょう。そうするとほとんどAppleが行っている垂直統合のビジネスモデルと変わらなくなってしまいます。
さて、これからマイクロソフトとハードウェアメーカーとの関係はどのように変わっていくのでしょうか?
「The Machine That Changed The World」という本を紹介しました(こちら)。今から約100年前の1908年のことです。FordのがModel Tと言う、20世紀を代表する車を作りました。これがMass Production(大量生産)の始まりです。それ以前はCraft Production(クラフト生産)と呼ばれており、熟練工が車を一台ずつ作っていました。この生産方式には自動車の普及段階では大きな問題がありました。(この生産方式は一部のクラシックカーで今でも続いております)
何かどこかで聞いた話ですね。ソフトウェア業界は今もほとんどがクラフト生産をしているのではないかと考えてしまいます。2つ目の会社としてSIerを選択しなかったのは、この本と深く関係しています。1つ目の会社は文字通りSIerでした。一番辛かったのは品質問題です。NTTの仕事をしていましたので、品質に厳しかったのです。よく、「テスト不足なので品質が悪いのだ!」と言う人が多いですが、テストの項目については「どれくらいの規模のプログラムでどれだけのテスト項目が必要」などという決まりは当然あり、その通りに項目数を増やしてテストをしておりました。
自慢ではありませんが、私はテスト項目を思いつくのには自信がありました。まさか、ユーザはこんなオペレーションをしないだろう!と言うような項目まで入れておりました。それでも品質は良くならないのです。私は直感的に何かやり方が悪いのだろうと考えておりました。そして、大学の授業でオブジェクト指向などを積極的に取りました。一度社会経験があるので、授業の選択の仕方もその方向に進みます。主に、ソフトウェアエンジニアリング系とAI(当時はエキスパートシステムと呼んでいた)の授業を取りました。米国の大学はMajorとMinorという考え方があります。”What is your Major?”と聞かれると、”My Major is Computer Science.” と答えます。そして、”Minor is Expert System.” となります。
少し話が逸れたので、もう一度Lean Production(リーン生産方式)の話に戻ります。「The Machine That Changed The World」の本にはFordが成し遂げたイノベーションである「大量生産方式」を、日本の小さな企業がぶち壊して「リーン生産方式」というイノベーションを行ったことが書いてあったのです。そのリーンの始まりは、トヨタ自動車の若い技術者がFordの工場を訪問することから始まります。
ここからは正確に伝えた方がいいと思いましたので英文と併記して説明します。この本には以下のように書いてありました。
日本語訳:日本人は、リーン生産方式と呼ばれるまったく新しい物作りの方法を開発していました。
The Japanese were developing an entirely new way of making things, which we call lean production.
1950年の春にトヨタの豊田英二氏がFordを訪問しております。本には以下のように書かれております。
In the spring of 1950, a young Japanese engineer, Eiji Toyoda, set out on a three-month pilgrimage to Ford’s Rouge Plant in Detroit.
日本語訳:1950年の春、日本の若いエンジニア、豊田英二は、デトロイトにあるフォードのルージュ工場への3か月の巡礼に出発しました。
トヨタは創業から1950年までに2,685台の自動車を生産しましたが、ルージュ工場では1日で7,000台を生産していたそうです。そして、デトロイト訪問後リーン生産方式への厳しい道のりが始まりました。
Eiji was not an average engineer, either in ability or ambition. After carefully studying every inch of the vast Rouge, then the largest and most efficient manufacturing facility in the world, Eiji wrote back to headquarters that he “thought there were some possibilities to improve the production system.
日本語訳:豊田英二氏は、能力的にも野心的にも、平均的なエンジニアではありませんでした。当時世界最大かつ最も効率的な製造施設であった広大なルージュ工場の隅々まで注意深く研究した後、英二氏は本社に次のように返信しました。「生産システムを改善する余地があると思う」
But simply copying and improving the Rouge proved to be hard work. Back at home in Nagoya, Eiji Toyoda and his production genius, Taiichi Ohno, soon concluded—for reasons we will explain shortly—that mass production could never work in Japan. From this tentative beginning were born what Toyota came to call the Toyota Production System and, ultimately, lean production.
日本語訳:しかし、ルージュ工場を単にコピーして改良することは大変な作業であることがわかりました。名古屋に戻った英二氏と生産の天才である大野耐一氏は、すぐに、後で説明する理由から、日本では大量生産は不可能であると結論付けました。この暫定的な始まりから、トヨタがトヨタ生産方式と呼ぶようになったもの、そして最終的にはリーン生産方式が生まれました。
日本では大量生産が難しいという理由は以下です。ここは長いのサマリー情報だけ記載します。
大野氏はその後何年もかけてこの金型を簡単に誰でもが変更することができるようにする方法を開発しました。そして、ついに1950年代終わりごろにその方法を開発しました。そして、その方法を利用することで、大量の部品を一度に作成するよりは、バッチサイズを小さくして少量の部品を作成する方がコストが安くなることを発見します。これがトヨタ生産方式の始まりでかつ世界を唸らせたリーンプロダクション方式の始まりでもあります。
当時(1992年ごろ)、米国にいた私は車がないと話にならない地域に住んでいたので、知り合いと頻繁にディーラーに出向いておりました。不思議なことに米国には新車の在庫がいっぱいあったのです。その頃日本では、新車はディスプレイの1台だけおいてありました。米国の新車の在庫は一台ずつ違うスペックでした。オートマチックのものマニュアルのもの、パワーステアリングが付いているもの、ついてないもの。エンジンのサイズの違いなど。米国では、自分が気に入った車を乗ってみて、大丈夫だと思ったら購入します。一方日本では、試乗車がおいてあって、その車が気にいると、パンフレットに書いてあるタイプやオプションを加えたり削ったりしながら見積もりを作ってもらい、顧客は多少のスペックを変更して予算と好みが合うとその車を発注します。そして、1ヶ月後に本当に新品の車が納品されます、ディーラーの人はそれにリボンなどを貼って写真を撮り納品のセレモニーを行います。
もちろん車に関する意識が多少米国と日本では違います。米国は他人がいい車だ!と言っているのはあまり信用しないで、自分でいい車かどうかを確認します。また、多少のオプションの違いは気にしません。一方日本は、誰かの推薦でいい車だ!というのを信頼するし、品質の問題はほとんどありません。一方で、細かいオプションの違いで自分の車であるということを誇るところがあります。なので、米国と日本の顧客の買い方の違いでこのようなディーラーになっていると思います。しかし、日本の場合は同じ車種でも名前の違う車がいっぱいありました。日本の顧客はその頃から多品種少量生産出ないと満足しない状況になっていました。そのため日本の自動車メーカーはバッチサイズを小さくして顧客のニーズに応えていたところが大きいと思います。
この本を読んだ後に、私は、SIerのビジネスはクラフト生産方式であり、パッケージのビジネスは大量生産方式であると考え始め、SIerに戻ることを考えませんでした。いつかSIerのビジネスは縮小する時があるのだろうと考えました。そしてパッケージビジネスを選択したのですが、長い間、リーン生産方式に当たるものはソフトウェア業界ではどういうものなのか?を考え追求してきました。この先はまた別途書きたいと思います。
2021年春、Techiespod(テッキーズポッド)を創業しました。日本のソフトウェア業界においてソフトウェア技術者の地位向上を目指したいと思いテッキーズポッドという名前の会社にしました。まだロゴもありません。ホームページもやっとできました。若いソフトウェア技術者と一緒に成長していきたいと考えております。これからIT業界に入りたいと考えている人たち、これまで大企業のシステムインテグレータで働いてきたが、もっと新しい働き方を目指したいと考える人たち、そんな人たちと一緒に成長できる会社を目指しております。
昨今企業でのDXがうまくいってないと言われています。米国やヨーロッパからやってくる新しいビジネスを日本からも作っていくことが大事です。そんな時代にこれまでのように、ユーザが要件を話して、プロジェクトマネジャがその要件をまとめて、そしてソフトウェア技術者たちがそれを仕上げていくやり方ではDXの時代にはついていくことができないでしょう。経済産業省の「2025年の崖」ではエンジニアが不足しているといっております。しかし、どのようなエンジニアが不足しているのでしょうか?
「AIの技術者が不足している」と言われております。もちろんAIの技術者も不足しています。「いや、DevOpsの技術者必要なんですよ」という人もいます。確かにDevOpsの技術者も必要です。「いや必要なのはSRE(Site Reliability Engineer)なんですよ」といろんな人がいろんなことをいいます。もちろんSREも必要です。しかし、DXが進まない1番の原因はそこでしょうか?ソフトウェア技術者自体がこれから作るサービスが面白いと考えて作ることだと思います。ユーザがこんな物作って欲しいというものを淡々と作っていてもいいものは生まれません。AI技術者も、DevOps技術者も、SREも、フロントエンドエンジニアも、セキュリティエンジニアも、サービスをよくするためのアイデアを出し合って、ユーザとともに働く時代にやっとなってきました。そういう人たちがDX時代を支えるのです。
私が「リーン」という言葉を初めて聞いたのは1990代初頭でした。”The Machine that change the world(The Story of Lean Production)”という本を読んだときに顧客の買い方が変わっている時代に作り方を変えないのはおかしい!と思いました。この本はアメリカからみた日本の自動車業界の生産方法について書いた本です。そしてそのサブタイトルには、”How Japan’s Secret Weapon in the Global Auto Wars will Revolutionize Western Industry”と書かれておりました。当時は国際問題になるほど、日本の自動車業界は強かったのです。その強い理由がこの本には書いておりました。
エリック・リースが「リーンスタートアップ」という本を書いた時に、この本のことを思い出してもう一度読み直しましたが、日本の自動車会社がフォードやGMなど米国の自動車会社の足元にも届かないぐらいに小さかったころに考えたやり方が、数十年の時を経てもう一度必要になってきていると思います。そして、この考え方はソフトウェア技術者が必要とするものと同じです。「スタートアップ」という言葉は、フォードやGMに比べて、資本力のない日系の自動車会社のことを意味します。
このことから考えて、DXとは従来の「情報システム」と呼ばれるものとは違うものと考えた方がいいでしょう。それは「作り方」も違うし、「作るもの」もちがうと考えなければなりません。同じAIでも基幹システムに必要なAIとDXに必要なAIは違います。インフラも、そして運用のやり方も違います。従いまして、最初の話に戻ると「ソフトウェア技術者達(Techies)の働き方」から変わらないとDXは成功しないと考えます。