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投稿者:minoru61

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(3)

M1 Macの続きです。Appleが2021年度第三四半期(2021年4月〜7月)の決算を発表しました。相変わらず調子がいいですね。

アップル、2021年第3四半期決算発表。iPhone売上は前年同期比で50%増

iPhoneは前年同期比で50%成長しておりますがMacは16%増です。昨年の今頃はまだM1 Macがリリースされておりませんので、まだそんなに売れているようには見えないですが、前期(1〜3月期)を調べてみると70%成長しており、Macだけで3ヶ月で1兆円売り上げを上げています。もちろん、リモートワークの影響は大きいでしょう。

前回の投稿、AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)ではバッテリーが長持ちすることを書きました。バッテリーが長持ちするだけではなく、CPUのファンが唸りません。リモートワークをしているとCPUが「ブーン」や「シャー」という音とともに冷却されることが多いと思いますが、M1 Macはそれを経験したことがありません。M1 Macにはファンレスのものとファンがついているものと2種類ありますが、私はその2種類ともファンが唸ることを体験したことがありません。

その理由はこのブログを読んでください。大変わかりやすく説明してくれております。

M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点

さてこの記事を読んで私が考えていたことは、端末(今回はゲーム機もあるのでPCではなく端末と呼びます)は主流が垂直統合型に向かっているということです。

垂直統合型はイノベーションを加速する

まずは、垂直統合型と水平分散型のビジネスモデルの違いを説明します。水平分散型のビジネスの代表例はパソコンです。パソコンは、CPUはインテル、ディスクはストレージメーカー(HDDとSSDのメーカ)、メモリはサムソンなどの半導体メーカー、そしてOSはWindowsとそれぞれが役割を分担してビジネスを行っております。

次に、垂直統合型のビジネスの典型は自動車業界です。自動車業界では各メーカが系列の部品会社を持っております。例えば、新車Aを設計することになったら、そのAにあう主要部品を系列メーカに設計を依頼します。この時点で、新車Aの部品の発注先は決まってしまいます。これは、自動車の場合には部品と部品の間のすり合わせが重要になります。エンジンの大きさにより車体の形が決まるし、車体の形が決まることで様々な部品に影響するからです。

つまり、設計段階からどんなものを作るのかは企業どうしてすり合わせをしながら設計しなければなりません。そのすり合わせにはもちろんコストも入るわけです。一般的には、水平分散はインタフェースが標準化されており、垂直統合はインタフェースは標準化されてず個別にすり合わせをします。なので、同じ部品を他社に売りにいっても使われることはありません。

標準化はイノベーションを阻害する

水平分散型のビジネスモデルは各部品のメーカが自社の強みを武器に、新規参入を許さない世界が一般的ですが、それはいつまでも続きません。なぜなら、顧客主導のスペック選びは長く続かないからです。例えば、PCのHDDは1TBと2TBとどちらがいいか?という質問に顧客はどう答えるでしょう。PCがコモディティ化をしたことにより、顧客が望む十分なスペックはどのメーカからも出荷することができるようになっています。1TBを超えるPCを必要とする人はほとんどいませんが、1TBを安く作るのは容易です。そして、それはインタフェースが標準化されることでより一層簡単になるのです。コモディティ化は業界の標準化を加速して、業界の標準化は競争を激化します。

これは、イノベーションのジレンマでクレイトン博士が指摘しておりますが、顧客の要望が持続的なイノベーションを優先して、それがそのうちに顧客の要件を十分に満たしてしまうからです。例えば、SSD(Solid State Drive)が世の中に出た当時は、高くて容量が少なくて、そして書き込みの回数に制限があるため、PCメーカからは毛嫌いされました。PCメーカは顧客に自社のPCを選択してもらうためには、ハードディスクを安く仕入れて、大容量のものを出荷したほうがいいからです。よく電気量販店でこのPCは1)メモリが多い、2)CPUは早い、3)ディスクの容量が多いの3つを主張する店員がいるでしょう。これがPCのビジネスを物語っておりました。量販店で「このPCでWeb会議をしたらどれだけファンの音が唸るか試してもらえますか?」と聞く人はいませんからね

イノベーションは案外単純な発想で生まれる

ということはSSDのビジネスは一生立ち上がらないのか?となりますが、そこがポイントです。SSDは書き込みに問題があったので通常のPCのストレージとしては当初は役に立ちませんでしたが、特定の端末にはかなり役立ちました。それは音楽再生端末です。音楽再生端末は書き込みが一回で、再生が何千・何万回となります。一度、入れた音楽を消すことはほとんどありません。SSDのデメリットは音楽再生端末にはデメリットにはなりませんでした。それだけではなく、音楽は思いついた時に再生したいので、SSDの様にスリープモードから再開するのが早いストレージは帰って武器になります。

ここからがイノベーションの始まりです。それが、持続的なイノベーション(ここでは単にイノベーションと書いている場合は、クレイトン博士の破壊的イノベーションを指し、持続的イノベーションと区別ます)により、製品がどんどん成長していきます。現在ではSSDは書き込みの問題は指摘されないぐらいに成長しており、値段も購入可能なレベルにまで安くなってきております。そのため、音楽再生端末がスマホへと進化をとげることができました。スマホが進化する過程で、今後はSSDではなくCPUが課題となります。スマホには音楽再生だけではなく、いろんなアプリケーションが動かなくてはなりません。Appleも最初は市販のARMアーキテクチャを利用しておりましたが、スマホが売れるのに合わせて、CPUも改善していく必要が生まれました。そこで、スマホのCPUを自ら開発始めたのです。それがAxx(xxには数字が入ります)というプロセッサです。A4〜A14までのアップルが設計したCPUはこちらでご覧になれます。しかし、このAxxが開発されている頃は、それがPCで利用できることはありませんでした。Axxはあくまでもスマホのアーキテクチャでした。しかし、それがまたまた持続的なイノベーションが繰り返されて、iPhoneからiPadになり、そしてついにそれをM1としてPCに載せることが可能なレベルまで成長していきました。

M1はこのAxxプロセッサから生まれております。つまり、スマートデバイスのCPUからパソコンのCPUへと進化を始めています。このiPadのOSからM1 Macへ代わるところで、破壊的イノベーションが発生しております。しかし、その原点はiPodでありiPhoneでした。最初の技術的な発想は単純に音楽が再生できる端末でバッテリーが長持ちし、いつでも簡単にスイッチがONできる機器というスペックから始まって、現在のM1 Macに至っております。

半導体は垂直統合で設計・製造されていく

ここからは私見です。冒頭の「M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点」という記事に戻りますが、これからは「CPUはインテル」という時代は終わります。もちろんインテルもSoC(System on a Chip)を作成するでしょう。しかし、PCもゲーム機もインテルがCPUを独占する時代ではなくなります。となると、いかに効率的にSoCを設計して製造できるかということが課題になります。これはちょうど自動車業界の系列でやっていたことです。それを国際的な枠組みでやらなければなりません。インテルはメモリやSSD(またはSSDに変わるもの)を他社と協業して設計・製造できるようにならなければなりません。

台湾のTSMCがこのエリアでは圧倒的に優位になっております。政治家が表面的(金銭的)な関わり方をしておりますが、問題はそこではないと思います。自動車業界の知見を半導体に持ってくることが必要だと思います。インテルはこれまで、CPUを大量生産すれば売れていたわけですが、これからは大量生産ではなく、個別の顧客向けにSoCをパッケージしていかなければなりません。また、売れる個数だけ生産をするというAppleの調達(カンバン方式に似た生産体制)方式も参考にする必要があるでしょう。

上の記事にもあるように、AppleシリコンやPS5で利用されているシリコンには、CPU、GPU、メモリなどがSoCで統合されて作られております。これからさまざまなパターンのSoCが提案されてくるはずです。そうなると、水平統合型のやり方では市場に追いつかなくなります。そのため、いろんなパターンの系列や提携が生まれてくるものと推測しております。

日本は何をなすべきか?

日本の弱点はソフトウェアに弱い所です。垂直統合といっても、端末の場合はオペレーティングシステム(OS)とハードウェアとのすり合わせが必要です。日本はハードウェアにおいてはまだまだ競争力があります。自動車もスマートウォッチも、ゲーム機も、世界の最先端にいます。しかし、ソフトウェアの面で強いのは、ゲームぐらいでしょう。特にOSについては現在日本のOSとして自慢できるものはありません。

その意味では、日本はOSを作るべきだと思います。OSを作るといっても、基本はLinuxでいいわけですから、GoogleのAndroidのように、Linuxベースで、端末固有に機能するOSを作ることが急務だとおもます。政府がお金を出すべきところは半導体の製造部分ではなく、端末のOSだと思います。そして、それは、iPodでの発想ように、機能的に高度なものでなくても構いません。特定の何かの顧客のジョブを解決するためのものであればいいのです。

投稿者:minoru61

Windows 11は成功するのか?

パーソナルコンピュータの業界ではこの1年動きが激しくなってきております。それはソフトウェアだけではなくハードウェアに至るまで様々な変化が発生しております。

既に紹介したようにAppleから衝撃的なアナウンスが出て約1年です。Appleから販売される全てのコンピュータをApple Siliconに置き換えるとアナウンスされたのは、2020年のWWDCのことでした。あれから1年、Appleは予定通り、Apple SiliconのM1を搭載したMac MiniとMacbook Airを年末にリリースしました。そしてそれから少し遅れてiMacもリリースしました。この反響は相当なものです。Appleの株価は過去最高値をつけて、次のM1XやM2というApple Siliconの噂まで出てきております。

マイクロソフトはどう動くのか?

スマホのマーケットは別として、PCのマーケットはいまだにWindowsが主流です。こちらのサイトでは、2021年6月時点でのデスクトップマーケットでは73%弱がWindows OSとなっており、MacOSの16%弱からすると圧倒的なシェアを誇っています。

近年、Appleの垂直統合というビジネスモデルを多くの企業がマネをする方向に向かっております。スマホのシェアにおいてはAppleはシャオミに抜かれて3位になったという報道がありましたが、スマホから得られている利益についてはAppleは圧倒的に一人勝ちをしております。これは垂直統合のモデルにあるというのが大方の味方ですが、私はその奥にもっと重要な真実があると考えております。(これについてはまたの機会にします)

一方でマイクロソフトはパソコンの水平分散型のビジネスモデルでWindowsのシェアを伸ばしてきているため、今更上記のような圧倒的シェアを投げ打って垂直統合に向くことは不可能でしょう。つまり、Windowsとしては今までと同じように、ハードウェアのパートナーという優良顧客をベースとしたビジネスモデルが主流になるものと思われます。Surface Proなどのマイクロソフト製のハードウェアを作っておりますが、これをビジネスの主流にしてしまうと、OSのマーケットシェアが減少していくと思われます。なぜならハードウェアベンダーがマイクロソフトを競合とみなすからです。ここにクレイトン博士がいう「イノベーションのジレンマ」があるわけです。

もしもまだ読まれていない方がおられましたら読むことをお勧めします。Appleのジョブズも参考にしていたと噂される本ですので、AppleやMicorsoftの今後の動きを見るには大変参考になります。

マイクロソフトはハードウェアにどこまで干渉できるのか?

マイクロソフトはWindows11でハードウェアのスペックに対して干渉を始めています。

Windows 11、TPM 2.0 チップを搭載 ハードウェアベースでセキュリティ保護を実現

これはこれまでと同じで、ある程度のWindows標準のハードウェアスペックを描きながらWindowsというOSが進化していきます。WindowsにとってはハードウェアメーカーはWindowsのバリューチェーンに組み込まれているからです。イノベーションのジレンマの著者であるクレイトン・クリステンセンはこのバリューチェーンこそがイノベーションのジレンマであると言います。既存のバリューチェーンがイノベーションを阻害することが多いということです。自動車会社にとってのディーラーもそうです。サブスクモデルに移行したいのだが、自動車のディーラーはサブスクモデルになると売り上げが短期的に大きく減ってしまいます。マイクロソフトがSurface Proにパワーシフトができないのは、既存の優良なバリューチェーンを壊すことができないからに他なりません。

Apple Siliconに代表されるようにクライアント端末はARMアーキテクチャに動き始めておりますが、WindowsがARMアーキテクチャに動き出すのはいつになるでしょうか?先日、以下の投稿をしましたが、各社ARMアーキテクチャに動き始めています。

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)

マイクロソフトが同じようにARMをベースとしたSoCに動くのであれば、Windowsがやらなければならないことは沢山あります。例えば、AIのライブラリをSoCに合わせてアプデするなどが必要となります。AppleやGoogleは自社のSoCに対応したPythonのライブラリなどを開発しているという噂もありますので、完全にARMベースのSoCでWindowsのOSを動かすためにはまだまだやることがいっぱいあるはずです。

マイクロソフトが「Windwos11が動くSilliconはQS、NS、GS、ISだけですよ!」とSilliconの指定をしてしまうと今度はハードウェアメーカーの存在意義がなくなってしまいます。ハードウェアメーカーは製造するだけの会社となってしまうでしょう。そうするとほとんどAppleが行っている垂直統合のビジネスモデルと変わらなくなってしまいます。

さて、これからマイクロソフトとハードウェアメーカーとの関係はどのように変わっていくのでしょうか?

投稿者:minoru61

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(2)

Apple Siliconが搭載されたM1 Macが発売されてから半年が経ちました。最近になって、ARMアーキテクチャのCPU開発がかなりホットな話題となっています。少し前後はしますが、ほぼ時系列に見ていきましょう。

マイクロソフトはQualcomとARMアーキテクチャのCPUの開発を行なっていると噂されていました。(2020年12月)

MicrosoftがArmベースのチップを自社設計との報道

そしてこのことは先日Qualcommからも開発しているという情報が発信されました。(2021年7月)

QualcommがAppleのM1に対抗するチップセットを独自に開発へ

しかし、これだけではありません。Qualcommの発表とほぼ同時にNVIDIAがARMベースのCPUをサポートすることを発表しています。(2021年7月)

NVIDIA、プラットフォーム「AI-on-5G」でArmベースCPUをサポート

これは驚くべき出来事ではありませんでした。何故ならARMはNVIDIAの傘下になっているからです。(2020年9月)

NVIDIAがArmをソフトバンクグループから4.2兆円超で買収

しかし、いまだにこの買収には異論が出ております。Qualcomm「異議あり!」(2021年2月)

Qualcomm、NvidiaによるARM買収に「異議あり」

英国政府の介入(2021年4月)

英政府、NVIDIAのArm買収に介入

ARMは元々は英国の企業でした。ソフトバンクグループが2016年に3.3兆円でそれを買収しました。

【3.3兆円】ソフトバンクはなぜARMを買収するのか?

異論が出ているということは、一緒にビジネスをしたいとラブコールを送る会社もあるということでしょう。英国政府の介入は表向きは安全保障上の問題ということですが、このシリコンの重要性が増しているということでもあります。

一方、NVIDIAはGPU(Graphics Processing Unit)で有名な会社です。GPUとは画像処理などをおこなう場合、浮動小数点の計算をかなり使うので、通常のCPUとは違った能力が必要となることから開発されてきたものです。そして、それが計算処理の多い人工知能にも活用できるということで、現在では人工知能の処理にも使われております。しかし、AppleのM1は、このGPUも自社で開発を行なっており、NVIDIAとしては脅威に感じてARM買収を決断したのでしょう。

Appleとスマホビジネスで切磋琢磨をしているGoogleも例外ではありません。(2021年4月)

Google Pixel 6が自社設計8コアARMチップを搭載か

GS(Google Silicon)と呼ぶそうです。Googleは以前からTPU(Tensorflow Processing Unit)という人工知能専用のSiliconを開発しておリます。深層学習などを使う人工知能では大量の計算をしなければならないことがあります。Tensorとは多次元配列のことで、深層学習では、この多次元配列掛け算をします。数学(線形代数)の得意な人はわかると思いますが、多次元配列×多次元配列のような2層(深層学習の深層とはこれを何重にも重ねること)の掛け算でもかなりのデータを処理が必要となります。それゆえに通常のCPUでは間に合わないような計算が必要になります。

役者は揃っているように見えますが何故ここまでARM界隈にいろんなアクションが出てくるのでしょうか?幾つかの理由があると思いますが、今日はその一つであると思われることを話します。ズバリ、全力消費です。

それは以下の記事が参考になるでしょう。アマゾンウェブサービスがM1 Macをクラウドで活用することがすでに発表されております。しかも、M1 Macが発売されたすぐ後です。(2020年12月)

AWSがMacインスタンスを提供開始

Apple M1はnotebookやデスクトップのSiliconです。クラウドのようにサーバを扱うにはまだまだスペックは足りません。Appleはさまざまなアナウンスを秘密裏に進める会社として有名でが、この発表は発売してすぐ後に行われています。考えられるのは2つで、かなり前からAppleとアマゾンが話をしていたのか?それともアマゾンが単属でビジネスになると踏み切ってAppleからハードウェアを調達することを決めたかです。

クラウドベンダーが使うハードウェアはコストを下げるために、通常は自作のハードウェアを利用することが多く、特にAppleのようなハードウェアを正規価格でしか販売しないところからは調達することはなかなか考えられません。しかし、そこまで価値があると見ているということでしょう。その価値は電力の消費量だと私は思います。

現在データセンターやクラウド事業者の間では、SDG’sなどの対応の追われていると思います。クラウドのサーバは増え続けており、そのため必要な電力も増え続けているはずです。Performance per wattという言葉をAppleのCEOのティム・クックが昨年のWWDC2020で仕切りに話していたのはそこにあります。そして実現したApple Siliconはアップルの重役も驚くほどのものだったということです。(2021年7月)

アップル幹部、M1 MacBookのバッテリー持ちが良すぎて「バグだと思った」と振り返る

Apple Siliconは只者ではないことがわかるかと思います。

(ちなみに、本日、喫茶店にて4時間、youtubeでWeb開発の動画をみたり、このブログを書いたりしておりますが、バッテリーはまだ80%あります。消費量は5%/hですね。M1 Macbook Airを使い始めてから、電源コードを持ち歩くことはほとんどなくなりました)

投稿者:minoru61

AppleのM1 Macはなぜ注目されるのか?(1)

DXを実現するためには自社のソフトウェアの技術ノウハウだけではなく、世の中の製品やサービスがどの方向に向かっているのかに注目をしなければなりません。昨年度に発表されたApple Silicon M1を搭載したMacbook、Mac miniと4月に新しく販売されたiMacに注目されるのは、今後のコンピュータのアーキテクチャがどのようになっていくのかを多くの人が興味を持っているからです。

最近、多くの業界でSDG’sが話題になっています。IT業界での最大の問題は、DXが進むと世界の電力のかなりの部分がデータセンターで必要になってくることです。GAFAと呼ばれている会社はサーバをクラウドに置いていますが、データセンターを自ら開発しています。多くは水力発電などを作ってその近くにデータセンターを構築しています。もちろん、電力の供給がそのままビジネスに影響していることもありますが、それ以上にエコな環境を整備して行きたいからと言うこともあります。

昨年の末に発売されたM1 Mac Miniを購入して色々作業をしておりますが、M1 Macの冷却ファンが回っている音を聞いたことがないです。最近、リモートワークが多く、Google MeetやWebexなどでミーティングする機会が多いのですが、油断をしていると直ぐに冷却ファンが回り出します。以前、自分の部下とミーティングをしている時に相手のファンが回り出してうるさかったので、高速道路の近くに住んでるのかと思い、窓開けているのか聞いてみました。そしたら、いいえ開けていませんと言ったので、その次に、洗濯物でも回しているのか?と聞いたのですが、それもありませんでした。実は、コンピュータの冷却ファンがミーティングが始まるとともに回り出していたのです。

コンピュータはCPUが回ると熱を持ちます。そして、その熱はコンピュータの誤動作にも繋がりますので冷却ファンが回り始めます。現在では、自動車の中にもCPUが入る時代になりましたが、このコンピュータの熱はいろんな業界で問題になっております。Appleが独自開発したApple Silicon M1は、iPhoneやiPadで10年以上も経験をした結果として作られておりますが、ベースのCPUはARMというアーキテクチャを元に作られております。このARMアーキテクチャはAndroidのスマホでも利用されているCPUですが、スマホはバッテリーの容量に直接影響するのでエコなCPUが必要となります。実際にM1はARMをベースとしたSoC(System of Chipの略、CPU以外に色々なコンポーネントを一つにしたチップ)なので、Apple独自ですが、CPUの命令セットはARMの共通のものを使っています。つまり、ARMをベースとしたCPUはインテルやAMDのCPUよりも、電力を食わないことで有名です。AppleのCEOであるティムクックはこれをperformance per wattの優れたCPUと呼んでいます。

以前から、このCPUを使ったクラウドというのが大きなテーマになってました。電力を食わないことからエコなデータセンターが作れると言うことです。しかし、いくつかの問題がありました。一つ目は色々なソフトウェアがインテルベースで作られていることです。なのでそのソフトウェアが動かないと使えないのです。二つ目はパフォーマンスです。スマホのCPUであるARMを使って、大規模なコンピュータを使えるのかどうかと言う点です。この2つが最近クリアされつつあります。

2つ目の課題を先に話しますが、富士通の富岳というスーパーコンピュータがARMベースのCPUを使っており、ご存知の通りスパコンの世界で成功しております。スパコンはCPUだけで勝負が決まるわけではないので、それだけで他のCPUよりもARMが優秀だ!とは言えませんが、少なくとも他のCPUと肩を並べたわけです。しかし、スパコンは一般に使われるコンピュータではないので、スパコンで使うソフトウェアだけを移植してしまえば言い訳ですが、一般のデータセンターではいろんなソフトウェアが動かないと使えません。そこで、1番目の課題である、ARMでソフトウェアが使えるのか?という課題が重要になります。

AppleのMacOSと言うオペレーティングシステムは以前はPowerPCと言うCPUで動いていたものを2000年代になって、Intelに置き換えており、さらに今回ARMに置き換えました。この過程で、AppleはソフトウェアがCPUのアーキテクチャの違いでうごかいない問題を経験しております。そこで、インテルのCPUで書かれたソフトウェアを移植する仕組みを実装してM1 Macが2020年末に販売を開始しました。

Apple Silicon M1搭載のPCはこれから2年かけて、IntelからM1に変更されて行きますが、多くの人がこのアーキテクチャが様々なクラウドサービスを動かす基盤となることに期待をしています。マイクロソフトもGoogleもARMアーキテクチャのコンピュータを開発中であることが噂されていますが、AppleのこのCPUの変更が成功するかどうかで今後のデータセンターやクラウドで採用されるコンピュータのアーキテクチャが決まってきます。